vol.1-½ temporary 

Photo Exhibition by Yuki Matsuo Feb.25 〜 mid-March, 2023

MIDTOWN BLUES, 2021

MIDTOWN BLUES, Midtown NYC, 2021

福岡最小、初の現代美術館を謳うWunderkammer FUKUOKAにて、当館のキュレーターも務めるアーティスト・松尾由貴の初となる写真展「temporary」が開催されている。

松尾由貴は2001年に渡米、言葉の壁を感じる環境の中で、日本から持ち込んだ20年以上愛用するミシンが現地での重要なコミュニケーションツールとなる。その後、拠点であるニューヨーク・ブルックリンを中心に「食」とその土地に根付くローカルカルチャーをモチーフとして、ミシンと手縫いを用いたホームメイドのファブリックフードオブジェクトの制作、フードマップなどの印刷物を自費出版するリトルプレスの活動に繋がっていく。

昨年帰国、地元である九州は福岡に活動の拠点を移す。そして先日足を運んだ福岡市美術館「永遠のソール・ライター展」の鑑賞がきっかけとなり本展の着想を得ることとなった。「まるでヴィヴィッドなフィルターがかかっているように見えた」と彼女が語るように、松尾が過ごしたニューヨークの日常、iphoneのフォトアルバムの中の何気ない写真に、ソール・ライターの作品が新たな視点を与えたのだ。

松尾の作品はいつも身近な手法(手芸や自費出版など)で生み出される。彼女はそれを専門家に敬意を込め自嘲的に「おままごと、ごっこ遊びの延長」と形容することが多い。しかし、そうした親しみのある手法で制作されるからこそ、松尾の作品は手の中に収めいつまでも愛でていたくなるような魅力を持つのだろう。

そして今回の作品も例外ではない。作品全てが最も身近な撮影機材であろうiphone内蔵のカメラによって撮影され、それに一つ一つトリミングを施し小さなサイズでプリント。写真の脇には、タイトル、撮影したエリア、年度を記した彼女の手書きの文字が添えられる。小ぶりな額に収まる小さな写真作品は、ソール・ライターが自ら焼き付けた写真を、手で小さく破りいつも持ち歩き偏愛していたという「スニペット」を思い起こさせる。

本展のタイトル「temporary」(一時的な、仮の、臨時の)は、ソール・ライターの展示タイトル「FOREVER」(永遠)と対比して名付けられた。ソール・ライターが人生の大半をニューヨークで過ごしたのに対し、彼女はtemporary visitor(一時的滞在者)であったことによるものだ。

ニューヨークの日常の一瞬を独特のフレーミングで切り取るソール・ライターの作品は、その地に訪れた経験のない多くの鑑賞者にとっては、匿名的な一つの絵画のように映るだろう。それに対して、ニューヨークのシンボリックな物事を、親しみのある画角で、ショートエッセイのようなキャプションと共に見せる松尾の作品は、まるで友人の旅日記の1ページを覗かせてもらっているような、とてもプライベートな感覚を覚える。

松尾の作品を鑑賞することによって、ニューヨークという別世界のような土地と、私達の生活とが実は地続きに繋がっているということを気付かせてくれる。そうして、日常を強く意識すればするほど、それがいつかは過ぎ去ってしまうという儚さを感じ、逆説的に永遠を思う。キャプションの中の随所に見られる祈りや追悼の言葉がそれを表しているのかもしれない。ニューヨークのローカルフードに永遠の賞味期限を与え、いつも私達に届けてくれるように、本展で松尾は、ソール・ライターとは違う視点、彼女なりの方法で「永遠」を表現しようとしているのではないだろうか。

松尾由貴写真展「temporary」会期は2月25日から3月中旬まで。福岡市美術館「永遠のソール・ライター展」は3月5日まで。できれば両展並行して鑑賞する事を強くおすすめしたい。文・トウユウキ

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