vol.1 Yuki Matsuo’s Wunderkammer

Wunderkammer Fukuokaの初代キュレーターを務める松尾由貴。マツオユキって誰?一体何者なの??「棚は口ほどに物を言う」と言うことで、松尾のヴンダーカマーを自宅からそのまま運んできてしまった。見た人がそれぞれに感じたこと、それがこれから始まる”Wunderkammer Fukuoka”の予感であり予告です。ヴンダーカマー・フクオカ、始動します!

YUKI MATSUO Interview / Text by Naoko Higashi

パンデミックをひとつのきっかけに、20年以上にわたり拠点としてきたニューヨークから、昨年10月に福岡に移住したばかりの松尾由貴。編集者、アーティスト、スタイリスト、デザイナー……既存の肩書きの枠に収まりきれない松尾が、“旅行者のような新鮮な視点”を持っているうちにやりたいと言っていたさまざまなアイデアが、いつの間にか “The Smallest but the coolest”な福岡初の現代美術館としてかたちになろうとしている。ヴンダーカマーを立ち上げ、同館のこけら落としも飾るいま、福岡カルチャーシーンにおける“転校生”の魅力を改めて紐解いてみたい。

――2005年にプレッツェルやソーセージなど、布で作ったフードオブジェを販売する架空のグローサリーショップYuki&Daughters、2012年にニューヨークのフード&カルチャーをガイドするマップシリーズで知られる出版社All-You-Can-Eat Pressを立ち上げたきっかけを教えてください。


Yuki Daughtersは、当時ソーホーにあったデザインショップKIOSKで働いていたときに、布で作ったプレッツェルをオーナーにプレゼントしたら、お店でも売りなよと言ってもらったのがきっかけです。のちにホイットニー美術館をはじめほかのショップでも扱われるようになりました。All-You-Can-Eat Pressの前身は、ソーシャルメディア時代が訪れる以前に、自身の備忘録的に朝・昼・晩・間食、口に入れたもの全てを記録した「365dishes」というブログにあります。最初は、大好きだったドーナッツの本を作りたかったんですが、紙の媒体にとって厳しい時代に突入していたのに加え、本は重くて送料が高い。マップだと「ラージレター」と言うサイズで安価に送れたため、ポストカードと雑誌の間を狙った、ドーナッツ・マップを作ったのが始まりでした。

――日本への帰国を決めた時点で、福岡に根付いたプロジェクトを立ち上げる構想はありましたか?

仕事がら、多くの人たちに帰国するなら東京でしょ? と思われていたようですが、東京に居る必要性が感じられなくて、断然魅力的だった福岡を選びました。でも福岡で出版活動を始めると、発信先が東京に向かってしまいそうな気がしました。フィジカルな展示はその場に行かないと見られないので、福岡でローカルな人たちがざわざわさしてくれることをしてみたいと言う思いはありました。すると、以前からYuki&Daughtersを取り扱っていただいていたDice&Diceのディレクター吉田さんが「せっかく福岡に戻ってきたんだから、Dice&Diceにコーナーを作りませんか?」と声をかけてくださいました。私の作品だけが並ぶより、国内外で知り合った面白いアーティスト、クリエイター、蚤の市のベンダーさんたちを福岡で紹介したいと思ったんです。「だったらミュージアムは?」という話に。“ミュージアム”って大袈裟に謳っておきながら、実際に行ったら「棚かい!」っていうのがいいなと(笑)。

――“ミュージアム”の名前である「ヴンダーカマー」という言葉に込められたコンセプトとは?

私は「神棚」と呼んでいるんですが、友人の家に行くと、本棚の隙間や飾り棚に、拾ったものや旅先で買ってきたものなんかを詰め込んだコーナーってありますよね? その人が凝縮されたようなコレクションを見るのが大好きなんです。吉田さんからスペースを見せてもらったときに、「あ、神棚だ!」とひらめきました。このアイデアをニューヨークでアシスタントに付いていた、アーティストで師匠でもあるRoss Menuezに話すと、「ヴンダーカマーみたいだね!」と言われたんです。初めて耳にするその言葉を調べてみると、様々な蒐集物をひとつの空間にぎゅっと詰め込んだ展示を指すアート用語だと知りこれだ!と。英語だと「Cabinet of Curiosities」になるのでまだイメージが湧くのですが、「ヴンダーカマー」だと何それ?と調べたくなる。それがいいなと思っています。

――随所に遊び心が詰め込まれていますよね。いろんなアイデアをひとつのプロジェクトにまとめ上げる秘訣を教えてください。

私は、練って練って作るというより、ランダムに浮かんだネタを繋げて一本のコントを作っていくのに近いのかも(笑)。今回も展示だけでは勝負していなくて、いろいろひっくるめて、してやられたって思ってもらえたら本望です。たとえば、私がYuki&Daughtersで肉のシリーズを作っているのも“肉屋さんごっこ”の延長なんです。今回は“ミュージアムごっこ”、かなり本気でミュージアムグッズも作っています。みなさん、福岡最小の現代美術館へ是非お越しください!

Previous
Previous

vol.1-½ temporary